ナイモノネダリ
慎重で粘着質な冷静さ。
軽率で飽き性な激しさ。
さて、
どちらの人間がおもしろそうだ。
どちらの人間が家庭的だ。
どちらの人間に愛されたい。
人間というものは
都合のいいことを言う。
恋をするなら刺激的な人がいい。
毎日同じではつまらない。
何をするかわからない人がいい。
自分の知らない世界へ
連れていってくれる人がいい。
そう言う。
ところが結婚となると、
誠実で、
安定していて、
穏やかで、
浮気をせず、
ちゃんと働き、
自分だけを見てくれる人がいい、
などと言い出す。
ずいぶん勝手なものである。
激しい人間に惹かれておきながら
自分に対してだけは穏やかでいてほしい。
自由な人間を好きになっておきながら
自分からは離れてほしくない。
飽き性なところを
少年みたいで素敵
なんぞと言っていたくせに、
自分に飽きられた途端、
最低な男
になる。
反対もある。
慎重で冷静な人間。
約束を守る。
昨日と今日で
言うことが変わらない。
一度好きになったら
簡単には離れない。
家庭をつくるなら
こちらのほうが安心かもしれない。
だが、
慎重ということは
なかなか動かないということでもある。
一途ということは
場合によっては執着でもある。
冷静ということは
こちらが泣いていても
「まず話し合おう」
などと言い出す人間かもしれない。
愛されているうちは頼もしい。
別れたくなったら
なかなか面倒臭そうだ。
人間の長所と短所なんてものは
だいたい同じところから生えている。
行動力のある人間は軽率でもある。
情熱的な人間は感情的でもある。
優しい人間は優柔不断だったりする。
一途な人間はしつこい。
自由な人間は勝手である。
慎重な人間は臆病で、
大胆な人間は
ただの阿呆かもしれない。
ところが恋をすると、
自分に都合のいい側だけを見る。
激しさは欲しい。
でも軽率さはいらない。
一途さは欲しい。
でも粘着質なのは困る。
自由でいてほしい。
でも自分だけは特別扱いしてほしい。
安定してほしい。
でも退屈なのは嫌だ。
欲しい。
欲しい。
こっちは欲しいが
そっちはいらない。
なかなかのナイモノネダリである。
そもそも、
相手の好きなところだけ切り取って
嫌いなところだけ捨てるなんてことが
できるわけがない。
その人間の激しさに惚れたのなら、
その激しさに
いつか自分が振り回されることくらい
覚悟したほうがいい。
その人間の冷静さに安心したのなら、
その冷静さに
いつか腹を立てる日も来る。
それが人を好きになるということなのだろう。
長所だけの人間なんぞ
たぶん面白くない。
欠点だけの人間なら
もっと面白くない。
だから恋愛は面倒臭い。
そして、
面倒臭いから面白い。
さて。
慎重で粘着質な冷静さ。
軽率で飽き性な激しさ。
どちらの人間がおもしろそうだ。
どちらの人間が家庭的だ。
どちらの人間に愛されたい。
そして最後に、
もうひとつだけ。
別れるなら、
どっちにする。
キュレーター紹介
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