空気のぬめりと舌の痛みがずっと残る
昼の集まりというのは、どうしていつも同じ匂いがするのだろう。
煮えすぎた味噌汁と、使い回された話題と、年を重ねた男たちの息。
机の上には量ばかり多い昼食が並び、味は相変わらず期待を裏切る。
その中で、あさりの味噌汁だけが異様に熱かった。
老人が一人、口もとに泡を溜めながら誰かの悪口を言っている。
のらりくらりと、しかし執念深く。
わたしはその横で、うっかり味噌汁を口に含んでしまい、
熱さに耐えながら、話の中身を半分も聞いていなかった。
続いて、少し若い男が、同じ人物について、
もっと丁寧で、もっと論理的な言葉を使って批判を始める。
結局言っていることは同じなのに、
言葉の整い方ひとつで、場の空気は正当性を帯びていく。
ここにいるのは全員男で、
そのことを最初に説明しておくべきだったと、今さら思う。
話題になっている行事には、
かつてのわたしも必死で関わっていた。
けれどある日突然、糸が切れたように興味を失った。
いつものことだ。
やる気を失う病は、わたしの中で静かに、しかし確実に再発する。
どうやらこの場の大多数は、
例の人物を快く思っていないらしい。
わたしは彼をそれなりに知っている。
好きではないが、そこまで悪人だとも思わない。
ただその判断をまとめる前に、
あさりの身を殻から外すたび、舌が悲鳴を上げる。
味噌汁を飲み干した、その瞬間だった。
「じゃあ、あなたはどう思う?」
わたしの番が回ってきた。
舌の奥がひりひりしたまま、
わたしは思ってもみなかったほど強い言葉で語り始めていた。
最近の自分のやる気のなさを、
その人物のせいにして。
男たちは一斉に笑い、満足そうにうなずいた。
口もとの泡老人の表情まで、どこか晴れている。
わたしの中に、強い悪意があったわけではない。
ただ、熱さで鈍った感覚が、
言葉を止める判断力まで溶かしてしまったのだ。
さほど悪い人間ではなくても、
嫌われるときは、こんなふうに決まっていく。
誰かの舌の火傷と、場の都合と、
少しの笑顔のために。
次の寄り合いでは、
もしかしたら、わたしが同じように語られているのかもしれない。
そう思いながらも、
今いちばん気になるのは、
舌に残ったざらざらした感触だ。
あの老人の口もとの泡も、
きっと熱すぎるあさりの味噌汁のせいだ。
今ごろ同じように、
舌の違和感を持て余しているに違いない。
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